「運動したわけでもないのに大量に汗をかくのは多汗症のせい？」
「多汗症ってどのような病気なの？」
このように、汗についてお悩みを抱えていませんか？異常に汗をかいてしまう病気に多汗症というものがあります。多汗症のせいで好きな服が着られなかったり、汗が気になって学校や仕事に影響が出たりしている方も多いのではないでしょうか。
今回は多汗症とはどのような病気なのか、どういった治療方法があるのかについて詳しく解説します。
多汗症とはどんな病気？
多汗症とは、全身または局所的に異常なほど汗をかく病気のことです。ただの汗かきと思われてしまうこともあり
本人が病気だと自覚していないケースも見られます。
• じっとしているのに汗が吹き出てくる
• まるでシャワーを浴びたかのように汗をかく
• 手や脇から滴るほど汗が出てくる
このような場合は、多汗症の可能性があるかもしれません。
多汗症を発症しやすい年齢
アメリカのデータでは、多汗症を発症した方の平均年齢は25歳でした。腋窩多汗症（脇の多汗症）に限っていうと、発症年齢の平均は22歳です。比較的若い年齢で発症しやすいといえます。ただし、多汗症の発症年齢は人種差があることでも有名です。
中国で行われた研究では、発症年齢の平均は12.27±2.12歳でした。日本での発症年齢はまだ明らかにされておりませんが、多汗症は10代から20代にかけて発症しやすい病気だといえます。
多汗症の種類
多汗症には、いくつかの種類があります。
〈症状が出る部位で分類〉
• 全身性多汗症
• 局所性多汗症
全身性多汗症とは、部位を問わず頭や脇、顔や背中など全身に汗をかくものです。
局所性多汗症は、手や脇、頭など部分的に多汗症の症状が見られます。
〈多汗症の原因で分類〉
• 続発性多汗症
• 原発性多汗症
続発性多汗症とは、なんらかの病気や薬剤の服用などが原因で起こる多汗症のことです。
とくに原因がわからず発症しているものは、原発性多汗症といいます。
多汗症が見られる部位
多汗症は次のように、さまざまな部位で見られます。
• 手のひら
• 足の裏
• 脇
• 頭
• 顔
• 背中
手のひらや足の裏に見られる多汗症は掌蹠（しょうせき）多汗症、脇は腋窩（えきか）多汗症、頭や顔は頭部顔面多汗症と呼ばれることが一般的です。
多汗症の診断方法
多汗症の診断方法として、次のチェック項目が使用されています。
1. 最初に症状がでるのが25歳以下であること
2. 対称性に発汗がみられること
3. 睡眠中は発汗が止まっていること
4. 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
5. 家族歴がみられること
6. それらによって日常生活に支障をきたすこと．
このうち、2項目以上に該当したら多汗症です。多汗症のエピソードとは、「汗が止まらなくなって仕事から抜け出してしまった」「手から汗が止まらず、紙を濡らしてしまった」などのものが該当します。
難しく考えず、汗で困ったことがあれば1つのエピソードとしてカウントして問題ありません。原発性多汗症の場合は遺伝の可能性もあるため、家族歴があるかどうかもチェックされます。
多汗症になる原因
多汗症の原因には多くのものがあります。ここでは代表的な4つの原因について見ていきましょう。
遺伝
まだ研究段階ではありますが、多汗症には遺伝が関係していると考えられています。胸部交感神経遮断術を行った49人の患者のうち65％で家族歴が見られたという例や、重症多汗症の62％に家族歴があったという報告があるのです。
パーキンソン病や不安障害などの疾患
続発性多汗症の原因として、パーキンソン病や不安障害、甲状腺機能亢進症などが知られています。原因となる病気がわかっているときは、そちらを先に治療するのが基本です。
ただし、原因を完全に取り除くことが難しい場合もあるので、そのようなときは汗を抑えるための治療も行われます。
薬の副作用
全身性の続発性多汗症の場合、薬が原因となって発症することがあります。原因となる薬の服用をやめれば、多汗症の症状も自然と落ち着いてくるでしょう。向精神薬や睡眠導入薬、ステロイド薬などが原因となることで知られています。
自律神経の乱れ
汗のコントロールを行っている自律神経のバランスが乱れると、多汗症になると考えられています。通常は交感神経と副交感神経がうまく働き汗を調整しているのですが、どちらかが優位になったり働きが落ちたりすることで汗をコントロールできなくなってしまうのです。
多汗症の治し方は？
多汗症は、汗の症状をできるだけ抑えてあげる治療が主流です。根本的に治す治療もありますが、保険適用ではなくお金がかかったり、副作用が出たりすることがあります。
塩化アルミニウム液を塗る
手軽に行える治療法として知られているのが、塩化アルミニウム液です。汗が気になる部分に塗るだけで簡単に発汗を抑えられます。塗ってすぐに効果が出るものではなく、数日続けて使うことが大切です。かぶれてしまう方もいるため、肌の様子を見ながら使用します。
エクロックゲルやラピフォートワイプを使う
エクロックゲルとラピフォートゲルは、腋窩多汗症の治療薬です。抗コリン作用のある成分を1日に1回脇に塗るだけで汗の量を抑えられます。抗コリン作用により、汗腺から汗が出るのを直接抑えることができるのです。保険適用で処方してもらえます。
ボトックス注射をする
ボトックス注射は、ボツリヌス毒素を使って発汗の指令を出すアセチルコリンの働きを抑制するものです。手のひらや脇の汗を抑えるのに有効で、一度注射をすると効果が約半年ほど持続します。
飲み薬を使う
漢方薬やプロバンサインなどの飲み薬も有効です。漢方薬は防已黄耆湯や桂枝加竜骨牡蛎湯などがよく使われます。汗が出やすい体質にフォーカスし、体質そのものを変えようとする飲み薬です。
プロバンサインはアセチルコリンの働きを抑えて発汗を抑制します。会議や発表があるときなど「どうしても汗をかけないとき」のお守りとして使っている方が多い印象です。
イオントフォレーシスを行う
イオントフォレーシスは、水道水に電気を流し、そこに手や足をつけることで汗を抑える治療法です。詳しいメカニズムについてはわかっていませんが、水素イオンが汗腺に蓋をすることで汗が出づらくなると考えられています。
交感神経遮断術を受ける
発汗をコントロールしている交感神経を手術で切り取ったり焼いたりする治療です。汗を根本的に抑えられる効果の高い治療方法として知られています。しかし、代償性発汗といって、手術した部位以外からの発汗量が増えることもあるので注意が必要です。
ミラドライを受ける
ミラドライは、皮膚の上からマイクロ波を当てることで汗腺を破壊して発汗を抑えます。皮膚を切らずに治療できますが、脇の治療で30～40万円ほどかかることがデメリットです。ただし、効果は半永久的で跡が残ることもありません。
多汗症に関するQ&A
では、最後に多汗症に関してよく聞かれる質問にお答えします。
多汗症とワキガは何が違うの？
多汗症は異常に汗をかく病気、ワキガは強いにおいを発する病気です。両方を併発している方もいます。
多汗症は何科で治療を受けられるの？
多汗症は皮膚科で治療を受けることが一般的です。内科で治療を受けられることもあります。
手掌多汗症は自然治癒しますか？
自然治癒は難しいと考えられます。しかし、多汗症は時間の経過と共に少しずつ症状が落ち着いてくることもあるため、症状が一生変わらず続くとも言い切れません。
髪の毛が汗でびっしょりになるのは何かの病気ですか？
汗かきのためびっしょりになる方もいますが、なかには多汗症が原因の方もいます。精神的な要因で汗をかきやすく、じっとしていてもびっしょりになる場合は早めに検査してもらいましょう。
まとめ
多汗症とは、異常なほど汗をかいてしまう病気のことです。「滴るほど汗をかく」「シャワーでも浴びたのと聞かれるくらい汗の量が多い」といった悩みを抱えている方は、もしかしたら多汗症かもしれません。原因がよくわからない原発性多汗症、何かしらの病気や内服が原因で起こる続発性多汗症があります。
塩化アルミニウム液やエクロックゲル、ボトックス注射やイオントフォレーシスなど治療方法がいくつかあるので、自分に合うものを見つけてみてください。合う治療方法が見つかれば、汗の量をぐっと減らすことができます。
この記事を書いた人：池田裕子さん
薬学部を卒業後、薬剤師として大手ドラッグストアで4年間勤務。市販薬の販売や調剤業務などに関わる。化粧品検定1級や上級心理カウンセラー、薬剤師などの資格を取得し、正しい情報をわかりやすく伝えられるよう活動を続けています。
